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???の独白
2007 / 11 / 01 ( Thu ) 12:51:38
 ふふふ、ついに始まったね。
 俺はこみ上げる笑いを抑えることができない。無理もない、十年も待ち続けてきたのだ。これから先起こるであろう惨劇を。
 
 SINKELと遙馨がラビに入っていったのは偶然じゃない。俺がそうなるように仕向けたのさ。本人たちに気づかれないようそれとなく、ね。

 彼らをラビに入れてしまえば、あとは『あいつ』の仕事だ。今のところは足止めの役割はちゃんと果たしているみたいだ。彼らは未だにラビから帰ってきていないのだから。
 いや、既に殺してしまっているのかもしれないな。SINKELが決して弱くないことは知っているが、あちらは必殺の構えで待っているのだ。いずれにしてもエサとして働くのならそれでいいが。

 予想通り、そのエサにつられて「あれだよあれ」から新たに団員が派遣されてきた。彼らをも狩ってしまえば、「あれだよあれ」を潰すことにまた一歩近づける。
 無論、「あれだよあれ」の強さは十分に理解している。あそこは精鋭が揃っている。崩壊させることは容易にできることじゃない。
  
 だがやらなくては。『あの計画』を実行に移すとき、あのギルドの存在は必ずやもっとも大きな障害になるであろうから。

 それにしても、と俺は思った。水面下で進めていたもうひとつの計画の失敗。そのお陰で計画はまた見直しを余儀されなくなるだろうな。
 やはりゴブリン程度の下級魔族で果たせる仕事ではなかったということか。

 ふむ。まあいい、また機会はあるだろう。それよりも今はこっちだ。

 さあさあ、地獄の罠に迷い込んでしまった哀れな子羊達を助ける、さらに哀れな獲物どもがやってきましたよ。

 まつむしは流石に良い判断力を持っている。ギルドの中でもかなりの実力者達を差し向けてくれた。『あいつ』が手ぐすね引いて待ち構えている巣の中へ。

 もう後戻りはできない。あとは計画を完遂するのみ。今日はその前夜祭だ。

 そして全てを終えたとき。

 俺の人生は光を取り戻す。
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その5
2007 / 11 / 01 ( Thu ) 12:26:04
 館の玄関まで走っていくと、外に出ようとしている人物がいた。ムーディは思わず足を止めた。
 足音に気づいて彼は振り返った。
 
 「ムーディさん、どうしたんです?そんなに急いで。」
 「やあユートゥ。ちょっと厄介なことが起こったんだ。これから確かめに行くところさ。君は?」
 ユートゥは手に持っていた本を目の前に上げた。
 「薬草学の本を発注したんですけど、何か手違いがあったみたいで別の本が届いてしまったんですよ。これから返品しに行こうと思っていたところです。」

 後ろから新たに廊下を走る音が聞こえ、そょ風とシンリスが姿を現した。
 「もうムーちゃ!置いていかないでよ!」
 「あ、ごめんごめん。」
 
 「あら、ゆーさん。こんばんは。」
 「こんばんは。」
 ユートゥに気づいて挨拶するそょ風とシンリス。
 「こんばんは、そょさん。ところで、一体何があったんですか?」
 
 そょ風はじっとユートゥを見て、
 「ゆーさん、丁度良かった、私たちと一緒に来てくれる?ゆーさんもいてくれたほうが心強いわ。」
 「え?ええ、構いませんが。」
 「ありがとう。じゃあ行きましょう。急ぐから道中で詳しいことは説明するわ。」
 
 そょ風は足早に館を出た。ユートゥは近くの棚に持っていた本を置くと、急いで後を追っていった。





 「しんさんがラビダンジョンから戻ってこないんですか?」
 走りながら説明を終えたそょ風に、ユートゥが聞き返す。
 「そうよ。もうかれこれ6時間以上経っているらしいわ。ハーブを採集しに行っただけなのに、これははおかしい、ってまつさんが心配してたわ。」
 「なるほど。確かに少しおかしいですね。」
 ユートゥは納得できた様子である。しかし、同時に疑問もあるようだ。

 「しかし、しんさんだって手練だから、もし敵に見つかったとしてもそう簡単にやられるとは思えませんが。これまでだって料理人という立場でありながら、数々の困難な任務をこなしてきていますし。」
 「わかっているわ。でも万が一ってことも考えないと。取り返しのつかないことになってしまった後では遅いからね。」
 
 取り返しのつかないこと。言った本人も含めて、軽い悪寒が全員を襲った。想定外のことが起きたので動揺しているだけだ、とそれぞれ自分に言い聞かせた。
 
 「しんさんは一人でラビに?」
 ユートゥが続けて聞いた。
 「いや」
 これにはシンリスが答えた。
 「はるこが一緒だったはず。」
 
 遙馨。シンリス、SINKELの昔なじみで、二人の薦めがあって最近入団してきた女の子だ。SINKELの手伝いが日課であったので、今回のラビにも同行したのだろう。

 シンリスは、歯軋りの音が聞こえそうなほど険しい顔をしている。一番の親友二人が、命の危機にさらされているかもしれないのだ。
 
 ダンバートンを北西に進んだ所にラビダンジョンはある。かつて、サキュバスが出るという噂を信じて幾人もの冒険者たちがこの地を訪れたが、彼女に出会えた者はいなかった。今ではここは、ハーブがよく採れるということで、魔法士やヒーラーの穴場となっている。スケルトンや骸骨オオカミといった魔族が多少は出るものの、他のダンジョンに比べて危険度は低いとされてきた。

 それがどうして今日に限って?シンリスは妙な違和感を覚えた。遭難者が出て、SINKELと遙馨は消息不明。明らかにおかしい。
 
 ラビダンジョンが見えてくると、シンリスは真っ先に中へ入った。すぐに女神の祭壇が見えた。ムーディ達も少し遅れて入ってきた。
 「シンリス、落ち着け。」
 気が逸っていることを感じて、ムーディはシンリスをなだめた。そしてそょ風に聞く。
 「SINKELは何を落としたんです?」
 「まつさんの話だと、あまり人がこない構造のダンジョンでハーブを採りたかったみたいだから、アイスエレメンタルを落としたそうよ。」
 ダンジョンでの任務に就く者は、必ず何を落とすかまつむしに届けを出す決まりになっている。
 
 そょ風はポケットからアイスエレメンタルを取り出すと、祭壇の上に立った。他の三人も同様に祭壇の上に立つ。
 「行くわよ。」
 『はい!』
 全員が声を合わせて答えた。
 そょ風は、手に持っていたアイスエレメンタルを、祭壇に落とした。
 
 しんちゃ。はるこ。無事でいて・・・・・・・・。

 視界が反転する直前、シンリスは改めて二人の無事を、強く願った。

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その4
2007 / 10 / 11 ( Thu ) 20:04:32
 「精霊剣、ですか?」
 部屋でくつろいでいたシンリスを呼び、雪野そょ風が二人に尋ねた。
 「そうなの。あの子の持っていた精霊剣が無くなっちゃったらしくて。気を失う前までは確かに帯びていたそうよ。」
 そう言われてムーディは腕を組む。隣でシンリスも考える表情をしている。やがて、ムーディが残念そうに言った。
 「いえ、近くにそういうものはありませんでしたね。彼自身も丸腰でしたし、刃物の類は一切所持していませんでした。」
 「そうですね。辺りが暗かったのでもしかしたら見逃していたのかもしれませんけど、少なくとも彼の近くにはありませんでした。」
 二人の言葉に、そょ風は気の毒そうな表情を浮かべた。
 「彼が気の毒だけど、しょうがないわね。」
 
 そょ風はヴァロスのいる部屋へ向かった。ムーディとシンリスも後に続いた。
 扉をノックし、所在を確かめる。すぐに中から「はい。」という返事が返ってきた。
 
 「雪野よ。ムーちゃとみぃちゃを連れてきたわ。」
 「あ、どうぞ。」
 ヴァロスが返答するのを待って、扉を開けた。
 「具合はどう?」
 「はい、大分良くなりました。ありがとうございます。」
 「そう。それならよかった。」
 言って、部屋においてある椅子に腰掛けるそょ風。ムーディ、シンリスも椅子を持ってきて、そょ風の隣に座った。

 「紹介するわね。こっちがムーディ。こっちがシンリスよ。」
 ヴァロスは二人に目を向け、頭を下げた。
 「倒れていたところを助けていただいたようで、本当にありがとうございました。」
 「いやいや、気にする必要はないよ。当然のことをしたまでだよ。」
 「そうよ。倒れている人を助けるのは当たり前よ。だからそんなにかしこまらなくてもいいわよ。」

 改めて御礼を言われて、二人とも少し照れくさそうだ。そんな様子を、そょ風は温かい目で見守っている。
 「あの、一つお聞きしたいんですが、僕が倒れていた場所に精霊の宿ったロングソードがありませんでしたか?」
 一転、不安げな顔になってヴァロスが二人に尋ねる。
 二人は、先ほどそょ風に言ったことと同じことを言った。
 「そうですか・・・・・・・。お二人も見ていませんか・・・・・・・・。」
 何か知っているだろう、という期待を裏切られて、ヴァロスは気落ちしたようだった。
 「後で遺失物として官庁に届けておくわよ。精霊武器なんて珍しいからすぐに見つかるわよ。」
 そょ風が元気付けるように言ったが、ヴァロスの顔は晴れなかった。

 「何をするの!?」

 突然、ヴァロスがベットから出ようとしたので、慌ててそょ風は止めた。
 「僕はもう大丈夫ですから。」
 「駄目よ。まだ一応安静にしていないと。」
 「そうだぞ。無理をするな。」
 「でも、これ以上ご迷惑をおかけするわけには・・・・・・・。それに、親方も心配してるだろうし。」
 
 親方?ヴァロスの口から出たその言葉に、ムーディもシンリスも首をひねった。
 「それなら大丈夫よ。あなたの親方の所へ使いを出しておいたわ。だから、気にしなくていいの。」
 そょ風は既にヴァロスの素性を知っているようだった。
 「だから、今はまだおとなしく寝てる。いい?」
 「・・・・・・・はい。」
 渋々とヴァロスは肯いた。
 
 ヴァロスが再び横になったのを見届けてから、三人は部屋を出た。
 「そょさん、彼は一体何者ですか?」
 部屋を離れてしばらくしてからムーディが聞いた。
 そょ風はチラリ、とムーディ、そしてシンリスを見ると、
 「私の部屋で話すわ。」
 それだけ言って、さっさと歩き出した。
 その様子から、何やら訳ありのようだ、と察した二人は黙って後をついていった。

 「さてと、どこから話したものかしらね・・・・・・・。」
 自室のソファに腰を下ろして、そょ風が口を開いた。
 ムーディとシンリスは向かいのソファに座って、口を挟まずに言葉の続きを待った。
 
 「十年前のあの事件、覚えてる?」

 「十年前?」
 言われて二人は考え込んだ。十年前といえば二人ともまだ十歳をいくつか出たばかりの子供だ。そょ風の言う「あの事件」に該当する大きな事件が何かあったか・・・・・?

 ムーディの頭の中にある事件がひとつ浮かんだ。しかし、それを口にするまえに、シンリスが言った。
 
 「ダンバートンの貴族の一家が皆殺しにされた事件、ですか?」

 そょ風は大きく肯いた。
 「そう。ダンバートン領主の側近の貴族が、魔族に襲われたその事件。」
 一呼吸置いて、そょ風は続けた。

 「彼は、その事件の生存者よ。」

 「ええ!?本当ですか!?」
 意外な話に二人は驚く。
 そょ風は二人を呼びに行く前に、まつむしにもヴァロスが目覚めたことを伝えようと事務室へ寄った。そして、調べをつけていたまつむしからこの話を聞いたのだ。

 ヴァロスフィオ・イオタイラン。ダンバートンの名家イオタイラン家の次男。父親はダンバートン領主の信頼厚い騎士であり、数々の魔族討伐の武功を上げていた。ヴァロスはそこの子供として、何不自由のない優雅な生活を送っていた。
 
 事件は、彼が数え年七つの時に起きた。

 その日は、イメンマハへの留学を明日に控えたヴァロスの兄を送別するパーティが開かれており、イオタイラン家の縁者たちが屋敷へ集まっていた。
 突如、ラビダンジョンより沸いた魔族の軍勢が、イオタイラン家を襲撃した。イオタイラン家はダンバートンの郊外に建っており、城壁で守られてはいなかったので、たちまちの内に魔族の侵入を許してしまった。
 豪華で賑やかだったパーティは、血で血を洗う阿鼻叫喚の地獄へと変貌し、結果、屋敷は炎上、参加者も全員が死亡した。
 ヴァロスの父も、勇敢に敵に立ち向かったが、無念にも討ち死にし、母親、そしてパーティの主役だった兄も殺されてしまった。
 
 「その後、駆けつけたダンバートン兵が魔族を追い払い、焼け出されて気を失っていたあの子を助けたらしいわ。」
 「・・・・・・・・・・。」
 ムーディもシンリスも言葉を発しない。ヴァロスの凄惨な過去に息を呑んでいるようだ。
 「両親を殺され、親族もほとんどが殺されてしまったあの子には、どこにも行くところがなくなった。そんな彼の境遇を不憫に思ったダンバートンの鍛冶屋が、あの子を養子として引き取ったらしいわ。さっき彼が言っていた親方とはその鍛冶屋のことよ。」

 「そう・・・・だったんですか。」
 二人はヴァロスの不遇に思いを寄せた。望むことは大抵のものができる立場にあった、恵まれた生活。それが一夜を境に、頼るべき人間をすべて失ってしまうまで転落してしまうとは。しかも、当時の彼はまだ七才の少年だったのだ。
 「可哀想、ですね・・・・・。」
 ぽつりと、シンリスが言った。ムーディもそょ風も神妙な顔で肯いた。
 「でも、だからといって私たちにしてやれることはあまりないわね。それに彼も、今では見習い鍛冶師として十分に生活を営んでいるわ。だから彼は大丈夫よ。」
 最大の不幸に見舞われても、ヴァロスは力強く生きている。そょ風はそう言いたかったに違いない。

 「あの子の精霊剣、見つけてあげたいですね。」
 「ああ、そうだな。」
 ムーディはしばらく中空を見ながら考えていたが、突然立ち上がって言った。
 「よし!探しに行こうぜ!」
 シンリスは肯き、立ち上がった。
 「ええ、行きましょう!」
 「ちょ、ちょっと待って。もう夜も遅いわよ。今から行くの?」
 「ええ、早いほうがいいでしょうし。まずは官庁へ行って遺失物の届けと出してきますよ。」
 ムーディとシンリスはいそいそと部屋を出ようとしたが、その前に部屋をノックしてきた者がいた。

 「そょさん、いる?」
 まつむしの声だ。少し慌てているようだった。
 「ええ、いるわ。入ってまつさん。」
 ドアを開け、まつむしが入ってきた。
 「ああ、ムーちゃ、みぃちゃもいたのね。丁度良かった。」
 「一体どうしたんです?」
 まつむしの顔には焦りが浮かんでいた。
 
 「三人とも、これからすぐに出動できる?」

 その言葉に、三人はただならぬものを感じ、表情を引き締めた。
 「しんちゃんがラビダンジョンに行ったっきり帰ってこないのよ。もう六時間以上が経過しているわ。」
 「何ですって!」
 SINKEL。あれだよあれギルドのメンバーでここの料理人を務めている。ハーブ集めのために、サイクロスが入ったダンジョンとは構造の違うダンジョンに入っていた。
 「無事でいると思いたいんだけど、しんちゃんがこんなに長くダンジョンに留まっているなんてこれまで一度もなかったわ。だから確かめてきてほしいの。」
 「わかりました、すぐに行ってきます!」
 言うなり、ムーディは部屋を飛び出した。
 「あ、ムーディさん、待ってください!」
 シンリスも後に続く。
 
 そょ風は、壁にかけてあったクロスボウとボルトの入った筒を掴み、背中に提げた。
 「じゃ、まつさん。行ってくるわね。」
 「あなたたちなら間違いはないと思うけど、気をつけてね。」
 「ありがと。それじゃ!」
 そう言って、そょ風も部屋を出た。


(続く)



作者・ユートゥ

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その3 (ヴァロスの独白)
2007 / 08 / 28 ( Tue ) 05:12:39
 長い夢を見ていた気がする。
 大きな窓の前におかれた高級そうな円卓テーブル。窓の外はバルコニーになっていて、沈みかけた夕日がよく見える。物思いにふける時、僕はよくそこの手すりから身を乗り出して、夕日が沈みきるまで眺めていた。
 今、そこに僕はいない。代わりに母が、僕がいつもやっているような姿勢でバルコニーに佇んでいた。

 何をしているの。僕は尋ねた。すると母は、僕が後ろにいるということに今気づいたように言った。
 「ヴァロス。ごめんなさいね、勝手に入って。」
 「ううん、いいよ。」
 僕はそう言ってはにかむように笑った。

 はにかんだ笑顔。僕にできる唯一の笑顔だった。
 いつからだろう。少なくとも7歳になったときには既にそうなっていた。僕には心の底から笑ったという記憶がない。
 理由は薄々と感づいていた。
 
 「あなたの兄さんのことをね、考えていたのよ。」
 「兄さんの?」
 そう。2つ上の兄の存在である。
 「近々、あの子がイメンマハに行く事になっているのは知っているわよね?」
 「うん・・・・・・・。」
 別にどうでもいい。とっととどこへなりと行ってしまえ。当時の僕は本気でそう思っていた。兄さんがいるせいで、誰も僕を見てくれないんだぞ・・・・・・・・。
 出来の良い兄が、邪魔だった。家の跡継ぎということでちやほやされる兄が、妬ましかった。気持ちをはっきりと言葉にすれば、そういうことになるのだろう。

 「ヴァロス。兄さんのことをわかってあげてね。あの子は跡継ぎとしてふさわしくあろうと一生懸命なのよ。」
 母は、そんな僕の気持ちをよく理解してくれていたと思う。母だけが、いつも僕と兄を平等に扱ってくれた。

 しかし、7歳だった僕は、母の心遣いも兄の気持ちも、全く考えたことがなかった。僕の頭にあったのは自分のことだけだったのだ。
 子供だったから仕方ない、と世間の人は言ってくれるかもしれない。

 だけど・・・・・・・・・

 そのせいで僕は・・・・・・・・・・

 あの時まで、いやあの時でも。

 結局、最後まで兄と仲直りすることが出来なくて・・・・・・・・

 僕は・・・・・・・・・・・







 「ッ!!」
 勢いよく体を起こす。
 「づあっ!」
 途端に体中に激痛が走った。
 「~~~~~~~っっ!な、何だ?」
 痛みが治まるのを待って、ゆっくりと顔を上げる。知らない部屋だった。
 「あれ・・・・?どこだここは・・・・・?僕は、どうしてこんなところに・・・・・・?」
 起きたばかりでまだうまく働かない頭を懸命に機能させて、記憶を呼び起こそうとする。
 確か・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 記憶の検索に入ったが、突如ドアが開かれて、その思考は中断されてしまった。
 「あ。」
 赤い衣装で全身を包んでいる女性だった。
 念入りに手入れしていると思われる、衣装と同じく赤い、艶のある髪と、綺麗な琥珀色の瞳が印象的で、どこかの深窓の令嬢かと思わされた。
 「良かったぁ、目が覚めたんだ。」
 女の人が破顔して言った。人懐こい笑顔だ。
 「あ、あの・・・・・・ここは?」
 人が現れたことにほっとしつつ、目の前の女の人に質問した。
 
 「ここは『あれだよあれ』ギルドの宿舎よ。あなたがマスダンジョンの近くで倒れていたのを見つけたうちのギルドメンバーが、あなたをここまで運んできてくれたの。」
 マスの近くで倒れていた、だって?
 僕は再び記憶を呼び起こそうとしてみるが、どうも気を失う直前の記憶が曖昧になっていた。

 僕は朝から昼間まで、ネリスさんのところで働いていた。そこは憶えている。
 それから・・・・・・・・。それからどうしたっけ?その後のことがまるで頭にもやがかかったようにぼやけていた。確か、何かの用事でダンバートンの外に出たと思うんだけど・・・・・・・・。

 「どうしたの?大丈夫?傷が痛むの?」
 不意に考え込んでしまった僕を案じて、女の人が声をかけてくれた。
 「ああ、いえ何でもないんです。気を失う前のことを思い出そうとしたんですけど、思い出せなくて。」
 「そう。無理をしないでいいわよ。ショックで記憶が混乱してるだけかもしれないし。落ち着いてから思い出しても遅くないわ。今、あなたを連れてきてくれた人たちを呼びに行くから、ちゃんとお礼を言ってね。」
 「はい、ありがとうございます。あの・・・・・・。」
 
 「私は雪野よ。雪野そょ風。よろしくね。」
 そう言って女の人、雪野さんは麗らかに笑った。

 「あ、はい。僕はヴァロスといいます。こちらこそよろしくお願いします。」
 僕も自己紹介を返した。
 「うん、それじゃ少し待っててね。」
 雪野さんは部屋を後にしようとした。

 しかし、そこで僕はハッっとなって慌てて辺りを見回した。
 「ち『誓い』、『誓い』ッ!!」
 無意識に大声を上げてしまった。

 「え?ああ、トイレなら廊下に出て左の突き当たりに・・・・。」
 「ち、違います違います!トイレじゃないです!」
 極めて嫌なほうに誤解したらしい雪野さんの言葉を必死に遮った。

 「『誓い』というのは僕の剣のことです。大事なパートナーなんですよ。」
 「もしかして、精霊武器?」
 「はい。ロングソードに宿らせた精霊です。今日も僕は『誓い』を帯びていたはずなんです。見ませんでしたか?」
 「う~ん。私は知らないわね。ムーちゃとみぃちゃなら知ってるかも。」
 「ムーちゃとみぃちゃ・・・・・・?」
 「あなたを助けてくれた2人よ。ムーディ、シンリスっていうの。」 「そうですか。そのお2人が僕を・・・・・。」
 「うん。とにかく呼んでくるから。あなたの剣のことも2人に聞いてみるといいわ。」
 「あ、はい。お願いします。」

 雪野さんはゆっくりとドアを開けて出て行った。
 「ふう・・・・・。」
 息を吐いて気持ちを落ち着けようとしたが、『誓い』が傍にいないせいで胸のざわめきは一向に収まらなかった。
 
 『誓い』。父の形見のロングソードを精霊化してできた、僕の一番の友達。完成から今日までの7年間、ずっと傍にあった存在。それが今、いない。
 どうしてだ。僕は頭を抱え込んだ。一体、僕に何があったっていうんだ。
 しかし、どれだけ思い出そうと努めても、甦ってくる記憶は何もなかった。
 
 落ち込みかけたそのとき、再びドアが開く音がした。雪野さんが戻ってきたのかと思って顔を上げると、そこには白いローブを身にまとい、同じく白い、魔導師が被るようなつばの広い帽子を被った男が立っていた。

 「あ、お目覚めになられたんですね。」
 男は、顔に柔和な笑みを浮かべて、穏やかな口調で言った。
 「あ、はあ、どうも・・・・・・。」
 この人が僕を助けてくれたムーディ、シンリスって人のどちらかだろうか?雪野さんと会う前に僕の様子を窺いに来たのだろうか?僕は、とさのことに戸惑い、つい間抜けな返事をしてしまった。

 すると相手にも僕の困惑が伝わったようだった。男は帽子を取り、軽く会釈したあとで言った。
 「申し送れました。僕はユートゥといいます。ここは『あれだよあれ』ギルドの宿舎で、」
 「あ、もう先ほど雪野さんから伺いました。」
 僕が言うと、ユートゥと名乗った男は一瞬きょとんとしたが、すぐに得心した顔になった。
 「なるほど。では御自分の置かれている状況は大体把握しておられるのですね。」
 「はい。どうもお世話になりました。」
 僕はユートゥさんに頭を下げた。するとユートゥさんは、少し慌てたように首を左右に振った。
 「いえ、僕は何もしてませんよ。あなたを助けてくれたのは、ムーディさんとシンリスさんです。」
 そうだった。今、雪野さんが2人を呼んでくれているんだ。

 「それでは失礼しますね。ゆっくりお休みになられて下さい。」
 話すことがなくなったらしく、ユートゥさんは労わりのことばを最後に踵を返して部屋のドアを開けた。

 その時だった。

 「え?」
 
 何故だろう。不思議な感覚。ユートゥさんの後姿を見たとたん、急に湧き上がってきた既視感。
 「どうしました?」
 呟きが耳に入ったらしく、ユートゥさんは再び顔をこちらへ向けた。同時に、僕は我に返った。
 「いえ、何でもありません。」
 「そうですか・・・・。それなら良いですが。」
 心配そうな顔で、ユートゥさんは僕を覗き込んだ。
 「本当に何でもないですから。心配してくださってありがとうございます。」
 「そうですか。でも無理はなさらないでくださいね。」
 「はい。気をつけます。」
 「それでは失礼します。」
 ユートゥさんは部屋から出て行った 。
 僕は、さっきの感覚は何だったんだろうと思ったが、きっと気のせいだとすぐにそれを打ち消した。

(続く)








作者・ユートゥ

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その2
2007 / 08 / 13 ( Mon ) 17:24:34
 薄暗い中、頭上に振り上げられたごつい斧が振り下ろされる前に、ゴブリンの顔面をメイスが強打した。
 ゴブリンの頭が歪にひしゃげ、もんどりうって倒れた。
 「八・・・・・。」
 友らしいは新たに討ち取った敵を勘定に入れて、次の敵へと向き直った。
 うじゃうじゃと群れていた敵軍も、今や半数以下に減り、残った連中の顔にも動揺が出てきていた。このままいけばあと短時間で掃討できるだろう。

 「ハニ、お前はどれくらい倒した?」
 友らしいは近くでアイスワンドを振るって戦っているHanielに呼びかけた。
 「これで、」
 Hanielはそこで一旦言葉を区切って、目の前のゴブリンにチャージしていたアイスボルトを放った。
 それは寸分違わず心臓を貫き、一瞬で絶命したゴブリンは、闘志を顔に宿らせたまま仰向けに倒れた。そして倒れたときにはもう全身が凍っていた。
 「九体、だな。」
 ニヤリ、と不敵な笑みを浮かべるHaniel。
 
 「くっ、負けてるな俺。」
 そう言って悔しそうに唇をかむ友らしいだが、目は笑っていた。そして新手が放った斧の一閃を、左手のカイトシールドで受け、今度はメイスを下から上段にかけて振った。
 
 相手のゴブリンもラウンドシールドで受けたが、凄まじい衝撃に耐え切れず、そのまま後ろへぶっ飛ばされてしまった。
 
 すぐに起き上がったゴブリンだったが、同時に五つの火球が額、両腕、両脚を正確に捉え、またも体が宙に浮く。しかし、今度は着地することはなかった。地面に落ちる前にゴブリンの体は跡形もなく燃焼していた。
 「九・・・。まだ腕は鈍ってないな。」
 呟きつつ、友らしいは額に浮いた汗を手の甲で拭った。ファイアボルトをチャージしたため、周囲の熱が上がっていた。
 「お見事。」
 Hanielが短い賞賛の言葉を送る。
 「サンキュ。」
 友らしいも短く返す。
 
 周囲の状況を見る。依然としてこちらが圧倒的に優勢だ。そろそろ潮時か。
 「良し、ハニ、あれをやるぞ。」
 「了解。」
 Hanielはアイスワンドを構えて何やら呪文を唱えだした。友らしいも背中に提げていたファイアワンドを出し、呪文を唱え始めた。
 やがて詠唱を終えた二人の周りに、それぞれ巨大な氷柱と火球が現れた。

 「みんな引けぇ!俺たちが一気に片付ける!」
 まだあちこちでゴブリンと戦い続けているギルドメンバー達は、友らしいのその声に機敏に反応し、それぞれが目の前の戦いを放棄して友らしいたちの方へ駆けてきた。
 「見ろ。マスターたちがあれをやるらしいぞ!」
 「おお、あれか!」
 「久しぶりに見るなぁ!」
 「マスター、ハニさん、やっちゃってください!」
 口々に期待と応援の言葉を上げるメンバーたち。友らしいは全員が自分たちの後方へ避難したのを確認すると、隣のHanielに向かってニッ、っと笑い掛けた。
 
 急に逃げ出したメンバーたちを追ってきたゴブリンたちは、その先に控えている二人を見て、何やら得体の知れない不気味さを覚えた。
 このまま突っ込んでもいいのかどうか計りかねて、ゴブリンたちの足が止まった。

 「今だ!」

 友らしいの合図で、Hanielが頭上の氷柱を目前のゴブリンたちに放った!
 氷柱は空中で分散し、目にも留まらぬ速さで次々とゴブリンたちに襲い掛かる!

 悲鳴を上げる間も逃げる間もなく、ゴブリンたちはその場で一瞬にして凍り付いてしまった。

 「さ、フィニッシュをどうぞ、マスター。」
 「おう!」
 
 友らしいはファイアワンドを掲げた。すると身の回りを漂う火球がワンドの先端に集まった。

 「食らえ!」

 狙いを定めて一気に火球を開放する!

 火球はゆっくりと半月を描いて、凍ったままのゴブリンたちの丁度中心部に着地した。

 瞬間。

 火球が弾け、凄まじい爆炎が辺りを飲み込む!ゴブリンたちは一瞬で爆炎に包み込まれ、その爆風が友らしいたちにも降りかかる。真昼のように辺りが明るくなった。腕で目を守り、爆風が収まるのを待った。
 
 やがて風が止むと、皆恐る恐る顔を上げた。

 ゴブリンたちがいた場所は、草木が一本ものこっていない荒野と成り果てていた。そのあちこちに、黒こげの死骸となったゴブリンたちが転がっていた。

 おおお!とメンバーたちから声が上がった。
 生き残った僅かなゴブリンたちは、その光景を見て最早戦う気力も失せたようで、我先にとガイレフ方面へ逃げていった。

 「追うな。追わなくていい。」
 追撃に移ろうとしたメンバーたちを友らしいが制した。
 「この暗闇だ。それにこちらも相当の疲労が溜まっているはずだから追ったところで結果は見えている。ゴブリン部隊を壊滅に追い込んだ。それで良しとしよう。」
 マスターの冷静な判断にメンバーたちは追撃を思いとどまった。
 
 「良し、宿舎に帰ろう。」
 友らしいがそう言うと、皆お互いにお疲れ様でした、と声を掛け合って、ぞろぞろと宿舎に帰っていった。
 
 「ん?」
 自分も帰ろうと踵を返しかけた友らしいだったが、ふと何かの気配を感じて荒野に目を向けた。
 「マスター、どうした。」
 先に帰りかけていたHanielが聞いてきた。
 「いや、なんでもない。お疲れハニ。」
 「おう、お疲れ~。先に帰ってるわ。久しぶりにやったらえらく疲れてしまった。」
 「あはは、またやろうぜ。」
 「いいぜ、今度はもっと強いやつにかましてやろう。」
 「ああ、そうだな。」
 「んじゃ、また後で。」
 「おう。」
 Hanielはダンバートンへと歩いていった。
 
 友らしいは荒野に目を戻したが、そこには焦土以外に何もなかった。さっきのは気のせいだったかと思ったが、ある一点が光を反射していることに気づいた。
 「あれは・・・・。」
 目を凝らしてよく見てみると、抜き身の剣が焦土に突き刺さっていることが分かった。
 友らしいは慎重に剣に近づいた。何でこんなところに剣が?さっきのゴブリンたちが落としていったのだろうか?そんな疑問が頭をよぎる。
 近づくにつれて、その剣が全くの無傷であることに気づいた。剣身に曇りも欠けた部分もなく、柄でさえ新品と見まがうばかりに綺麗だった。そしてその近くに、立派な装飾を施した鞘も落ちていた。

 「これは・・・・・・ロングソードか。」
 柄を握り、地面から抜き取った。
 
 すると剣身が光を放ち、声が聞こえてきた。
 『う・・・・うう・・・。ここは・・・・・?』
 
 「これは精霊武器か!?何でこんなところに・・・・・・?」
 友らしいは驚き、その剣をまじまじと見つめた。普通、精霊武器と契約者は離れられないはずだが・・・・・・。
 
 『汝は?』
 友らしいに気づいた剣が声をかけてきた。
 「な、汝?えらく古風な言葉遣いをする精霊だな・・・・・・・・。」
 『契約者は?我の主はどこにいる?』
 面食らう友らしいに構わず、焦りの混じった声で精霊剣が問いかける。
 「う、う~ん。俺も今あんたを見つけたとこだし。契約者の名前は何ていうんだ?」
 『ヴァロスという。年は十七の男だ。』
 「ヴァロスね・・・・・。わかった、ダンバートンに帰ったら調べてみるよ。」
 『かたじけない。』
  
 友らしいはとんだ拾い物をしたと思いつつ、精霊ロングソードを鞘に収め、ダンバートンへと帰っていった。無論、ヴァロスが自分たちの宿舎に運び込まれているとは知らずに・・・・・・・・。
 
 

テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

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